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最初の投稿<細分> 〈1〉



〈1〉

 どうしたらいいのでしょうか?

 もう仕事というものを3箇月ほどしていません。
 もう、どんな仕事もできる気がしません。
 全く意欲がわきません。
 歯を磨いたり、髪を洗ったり、着替えをしたりということすら、私には或る種の決心を要する行為です。
 歯を磨き、髪を洗い、伸びた髪を切り、身だしなみを整えて職探しをし、面接したとしても、私の発している異様な雰囲気のせいで採用は断られることになるでしょう。

 自分が世の中の役に立たない人間だということはもうイヤというほど思い知らされました。

 愛想を要求される客商売、流れ作業、スピードを要求される仕事、正確さを求められる仕事、力仕事・・・
 世の中にある、ありとあらゆる仕事に自分はことごとく適していないのです。




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最初の投稿<細分> 〈2〉



〈2〉

 失業手当、生活保護の申請・・・ 諸々の手続きもする気が起きません。
 最後の職場からは飛び出してきてしまいました。間に合わせで使われるという感じのアルバイトでしたから、失業手当があるとは思えません。
 意欲が全く欠けているとは言っても、体は全くの健康体なのですから生活保護が受けられるとは思っていません。
 精神的な問題があるということで申請しようとしても、診断書が必要なのでしょう。医者にかかる金はもう残っていないのです。

 そういえば、ここしばらく、保険証も手元にない状態です。
 私は保険や年金のしくみをよく分かっていません。

 税金も、水道代も、電気代も、ガス代も、電話代も、滞納しています。保険料も。

 電気や水道は2,3日中にも止められるかもしれません。それにガスも。電話はもう止められました。
 今までは何とか、遅れながらも支払っていましたが、今回ばかりは、止められることは免れないようです。

 借金も、月々5万程度の返済をしなければならないのですが、先々月末までに支払わなければならなかったものがまだ支払えていません。




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最初の投稿<細分> 〈3〉



〈3〉

 あつかましくも、生きてはいたいのですが、――
自分がこれから先、生き続けていても、他の人や世の中の迷惑になるばかりで、何の益ももたらすことができません。
 私は単に存在しているというその事だけで、周囲の人に不快感を与え、不運をもたらしてしまうのです。

 こうなると、どうも自分は、自分で自分の存在に始末をつけなければならないようだ、という考えにもなってきます。

 自分は人の役に立てないばかりでなく、自分自身にとってすら厄介者です。
 高卒の上に、特殊な技能も才能も持ち合わせていず、生活能力もなく、腕力もなく、社交性も全く欠けています。
 こんな自分が、この世の中をこれ以上生きていける訳はないのです。






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最初の投稿<細分> 〈4〉〈5〉



〈4〉

 私は何をするにも自信がありませんでした。
 私は失敗を極度に恐れる人間でした。
 自分の労働が金に換えられるなどということは実際に仕事をしてみるまではほとんど考えられないことでした。


〈5〉

 危険が伴うものは、仕事でも、家庭での作業でも、娯楽でも、なるべく関わらないようにしてきました。「自分自身がケガをするかもしれないし、自分が加わることで、自分の働きで、周りの人をケガさせたり、最悪の場合は死なせたりしてしまうかもしれない」などという不安を、そういう厄介な事(ふつうの人にとっては何でもない事)に関わりそうな機会があるたびに抱いたのでした。
 また、危険などなくても、私の働きが作用などしなくても、とにかく私が存在しているというその事自体が、私の周囲の人に迷惑をかけ、不快を与えてしまうのではないかという不安がありました。
 あれもできないし、これもできない・・・ 能力の幅を広げようにも、そのための行動も起こせない、という具合で、生活能力は身につかず、遊びやスポーツで同性や異性との交際の機会を得るなどということもできず、仕事の選択の幅も狭まっていきました。




tag : __●最初の投稿<細分>__ 加害妄想 加害恐怖

最初の投稿<細分> 〈6〉〈7〉



〈6〉

 私は仕事らしい仕事をしたことがありませんでした。私のやってきた仕事は「ちょろまかし」と言ってもいいようなものばかりでした。突っ立っていればいいだけの仕事、電話がかかってくるのを待ち続ける仕事、電話をかけまくるだけの仕事、キーボードを叩き続けるだけの仕事・・・
 私は一度も正社員になったことがありませんでした。正式に就職することを希望したこともありませんでした。自分に正社員にふさわしい働きができるとは思えなかったのです。


〈7〉

 女性との交際も、「自分にはそんなことは身分不相応だ」という考えがあって、斥けているような感じでした。(斥けるまでもなく、私に寄ってくる者などありませんでしたが。)しかし、女友達や“彼女”と呼べるような女性が、時が経ちさえすればいつかはできるだろうと漠然と期待してもいました。
 こちらが好意を抱いた女性をこちらに強引になびかせるなどということは私のような者には当然無理なことでした。向こうの方から好意を示してくれて、私の欠点を知り尽くした上で交際に入ってくれるという女性とでなければ、私の場合異性との関係は結べないような気がしていました。
 10年や20年もの年月の間には、そういう女性が一人ぐらいは現れるのではないかと思っていましたが、そういう人はついに一人も現れませんでした。女性との関係は、時が作ってくれるものではなくて、自分で、やや強引に手に入れなければならないもののようだと、人生の半分ほどを終える頃になってからやっと思い至るようになりました。




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最初の投稿<細分> 〈8〉



〈8〉

 「失敗を極度に怖れることは、失敗すること自体よりも悪い」という外国の諺を私は知っています。ずいぶん前から知っていましたが、これは私の治療薬にはなりませんでした。
 「失敗を怖れることは、失敗そのものよりも悪いことなんだ。失敗を怖れちゃダメだぞ」と、よく自分に言い聞かせたものでした。しかし、そんなことをしたところで、何の役にも立ちませんでした。怖いものは怖いのです。

 高所恐怖症の人が、高い所を怖がるのを我々は責めることができるでしょうか? 犬を極度に怖れる人が、目の前で犬に襲われている子供を救えなかったということがあった場合、その人は責められるべきでしょうか? 「助けなければいけないとは思っていた。しかし恐怖に身がすくんでしまって動けなかった」と語る人に向かって「“動けなかった”んじゃなくて、“動かなかった”んだろ!?」となじってもいいものでしょうか? 私のような失敗恐怖症の人間を責めることも正しいことでしょうか? 「“失敗が怖くて努力できなかった”んじゃなくて、“努力しようとしなかった”だけだろ!?」と。




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最初の投稿<細分> 〈9〉



〈9〉

 恐怖や不安の理由や、それらを感じるしくみを客観的に把握できたからといって、恐怖や不安を克服し、感じないようにすることができるものでしょうか? 痛みの原因やメカニズムを知ったからといって、実際に肌に刺される針の痛みを感じないようにできるものでしょうか? 
 ふつうの人、怖いもの知らずの人にとっては、恐怖や不安などは空(くう)だ、実在しないものだ、実在しないものに心を乱されるなどは愚かなことだ、と思えるのかもしれません。ことに私のように、「失敗するかもしれないという予感」という抽象的なもの、眼前にないし現われることもないものが不安の対象ということだと、全く理解ができないかもしれません。「全くあり得ないこと」として最初から理解を拒まれるかもしれません。
 しかし、恐怖や不安は本当に存在し得ないのでしょうか? 肉体に対して痛みをもたらす針とその刺激や、棍棒とそれによる殴打のようなものが、心に対しても存在しているのではないでしょうか? 脳内物質のうちの或るものがその働きをする可能性はないのでしょうか? もしその仮説のとおりであるなら、その発生や分泌を、愁訴の主が思い通りにコントロールできたりするものでしょうか?
 PTSDのフラッシュバックに苦しめられるばかりでなく、フラッシュバックが起こってしまうのではないかという不安にさいなまれて、日常生活を送るのにも支障がある人がいる、という事実は、世の中にある程度認知され、不可抗力のものとして同情を集めさえしているようです。そういう状況を見ると、PTSDやフラッシュバック、ならびにフラッシュバックへの不安などは実在のものとして認められている、言わば市民権を得ている、ということになりそうです。それらのものの実在は認められて、「失敗するかもしれないという不安」は認められない、ということがあるならば、それはどのような根拠に基づく態度なのでしょうか?




tag : __●最初の投稿<細分>__ PTSD フラッシュバック 失敗恐怖症

最初の投稿<細分> 〈10〉〈11〉



〈10〉

 やれば得をしたり、気持よさを得られることであるなら、ある程度の労力を払ってでも、少しばかりの危険を冒してでも、失敗のリスクが多少あっても、やるはずです。私にそれができないのは一体何故なんでしょう? 私は行動「しない」のでしょうか、「できない」のでしょうか? 私にとっては明白です。私は「できない」のです。どうしても「できない」のです。


〈11〉

 「この世で一番不幸な人間は自分のことをあまりにも意識しすぎる人間だ」という箴言も私は知っていました。これもずいぶん前に、二十歳前に知りました。知った時、「これは要するにオレみたいな人間のことについて言った言葉だ」と思いました。「自分自身のことを過剰に意識すべきではない。そんなことをするのは自惚れや気取りがあるからじゃないのか? 自分はそんなに大層な存在ではないぞ」と自分に言い聞かせたものですが、これもやはり何の効果もありませんでした。却って、“自分のことをあまりにも意識しすぎる自分”を、あまりにも意識しすぎる自分、になっていってしまいました。
 夜寝ようとしている時に、ある不快な考え事に捉われて、それが頭から離れなくなり、
「考えてはいけない。眠れなくなってしまう。頭の中を空っぽにしなければ」と思っても、却ってその考え事が頭の中に居座ってしまうということがあると思いますが、それと同じようなことでした。




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最初の投稿<細分> 〈12〉〈13〉



〈12〉

 何故私は自分の外貌や自分のしていること、自分に対する他人の目を必要以上に気にしてしまうのでしょうか? 逆に、ふつうの人はどうして自分自身や自分のしていることを意識せずに屈託なく自由闊達に動いていられるのでしょうか? 
 自分自身のことがたえず気になっていたということは、自分というものに何か引っかかるもの、違和感があったからでしょう。ほころびや、裂け目や、出っ張り、・・・目で見える世界ではそれらの形をとって表れるものが、私という存在のどこかに生じていたからなのではないでしょうか?


〈13〉

 私はいつも、何をやるにも、何か得体の知れないものに身や心を結わかれているという感覚を感じ続けてきました。
 ごくごくふつうの、私以外の人が自然にできる事が私にはできないのです。この呪縛のせいです。
 大きな声を出すように言われてもスムーズに声が出ないし、あいさつやお礼を言うタイミングも逃してしまうし、ふつうの人の自然で気持のいい身のこなしが自分にはどうしてもできないのです。
 私のこの、何ものかに束縛されているという感覚を、私に関わる周りの人たちにどうにか説明できたら、と、もどかしく思うことがありました。(説明できたところでどうにもなりはしなかったでしょうが。)






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最初の投稿<細分> 〈14〉〈15〉



〈14〉

 時々私は本当に不思議に思うことがあります。
 ふつうの人はどうして、大した抵抗を感じることもなくこの世の中を生きて行けているのだろうか、と。
 何でもないような顔をしていても、誰でもみんな少なからず悩みを抱えてるものだ、とはよく聞かれる言葉です。
 私の悩みの対象、苦しみの根源は――私自身です。
 たしかに、自分の容貌や能力や性格について悩む人はいます。しかし、自分を苦しめているものは性格よりももっと奥深くにあるものです。


〈15〉

 ふつうの人はなぜふつうに人の顔を見ることができるのでしょう? 自分は人の顔をまともに見ることができません。面接等の時は、一瞥を繰り返して何とか間をもたせるのがやっとです。人から見られることにも不安を抱きます。視線を向けられることさえ苦痛です。

 ふつうの人が、満員電車や雑踏、見知らぬ人と狭い空間で顔を付き合わせていなければならない場で、意図せずして無表情でいられるのは、どういうしくみからなのでしょう?
 私は自室や、誰とも行き交うことのない深夜の街中でなければ自然な無表情になることはできません。私の人中での「無表情」は眉間に皺をよせた顰め面です。結局これが、一番楽なのです。幼稚園児の頃からそうでした。






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最初の投稿<細分> 〈16〉

〈16〉

 私は手を洗ったり、歯を磨いたり、髪を洗ったりする時、心の中で数を数えながらしています。以前から、自分との取り決めになっている数を数え切ってからでないと、歯磨きなり洗髪なりを切り上げられないのです。そうしないと心が落ち着かないのです。
 考え事をしていると、数えている数を忘れてしまうことがあります。そんな時はもう一度最初から数え直します。箸一膳を5分ぐらいかけて洗うこともありました。一回の歯磨きに30分程かかってしまうこともよくあります。
 ・・・・・・このような匿名の投稿でも、次の事を明らかにするのに激しい恥ずかしさを感じます。・・・
一回の歯磨きに1時間ちかく、あるいはそれ以上かけてしまった事もあります。

 私は上に書き表したような症状を「拘数症」と勝手に呼んでいるのですが、この拘数症は自覚できるだけまだいいのかもしれません。自分で意識できていない症状が、他にもまだまだ沢山あるのだと思います。
 そして拘数症を含めたそれらの症状が、私が仕事が下手なことや、人づきあいが苦手なことや、物事を順序立てて考えたり行動したりすることができないことの素地になってしまっているのだと思います。



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最初の投稿<細分> 〈17〉〈18〉

〈17〉

 私は幼児の頃から既に、この世に生きることに生きにくさを感じていました。生きることが後ろめたく感じられていました。

 私というこの醜悪な存在の形成には、私の親の育て方が大きく関与しているのだと思います。

 私の育った家庭環境では、他の家庭に比べて暴力が多く振るわれていたのは確かです。
 しかし、両親は私を生命の危機に陥らせたり、半殺しの目に遭わせたりしたわけではありません。
 住む家も、日々の食事も欠かさず与えてくれました。病気の時は手厚く看病もしてくれました。

 しかし、私の両親は、私の存在について、不満や、不快や、不安を感じ、よく慮ることなくそのことを口で言い表しました。


〈18〉

 私には上に兄、下に妹がいました。
 幼い頃のある時、
「本当は女の子が欲しかったのに、お前なんかが生まれてきた」と言われたことがあります。
 その時の記憶が生々しく残っている訳ではありません。別に言われた時にショックを受けたという訳でもありませんし、のちのち思い返すことがあっても特に心に痛みを感じるというようなことはありませんでした。実を言えば、父と母のどちらが言ったことなのかすら忘れてしまっています。しかし、忘れないでいるということは、私の心にとってはそれなりのものがあったからなのでしょう。

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最初の投稿<細分> 〈19〉〈20〉

〈19〉

 私の両親は、特に母は、喋ることに関して全く抑制が欠けていました。
 私の父母は、自分たちの感情を、感情の赴くままに流露させることにばかりパワーを使っていたように思います。
 子供の将来や家庭の幸福のためには何をしたらいいのか、――
 子供や家庭のうちに顕われた望ましくない現実の原因は何か、その原因を取り除くにはどうしたらいいのか、というようなことには一切関心を振り向けることはなかったように思えます。

 父も母も、何か望ましくない現実に直面すると、
「そんな事はあっちゃならない、そんな事はあるはずがない、実際にあったとしたら実に不愉快だ」というようなことを言うばかり、問題を脇へ追いやるばかりで、それを正面から解決しようとはしてこなかったように思えます。
 両親は自分の子供たちが悩みを持つこと、それを口に出すこと、弱音を吐くことを許容していなかったように思います。
 「人は悩みを抱えちゃならないし、抱えるはずがない。悩みなんて、要するに、“考え過ぎ”のことだ。悩みを抱えたとしてもそれを口に出しちゃならない、弱音を吐くなんて実に許しがたいことだ」とでも言う具合に。


〈20〉

 父も母も、子供の思いを受けとめることができない人たちでした。話をよく聞いた上で教え諭すということができない人たちでした。
 大声で罵ったり、望ましくない現実――子供にとって直視するに堪えない、触れないでおいてほしい情けない現実――を、これでもかこれでもかと眼前に突き付けて、「お前は要するにロクでもない人間なのだ。こっちが絶対に正しくて、お前が絶対に悪いのだからこれ以上こっちに手を焼かせるな」ということを思い知らせようとするばかりでした。
 私の両親はただ、自ら流露させた感情の激流に流され、呑み込まれ、我を忘れて激昂するばかりでした。

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最初の投稿<細分> 〈21〉〈22〉

〈21〉

 子供が挫けた時、子供の心を労わることにいちばん心を砕かなければならないのは、その子の親である筈です。
 しかし、私の育った環境では、両親こそが子供にもっともひどい傷を与える存在でした。

 父母の私に対する心ない言葉やふるまいは、時に、「野卑」と言ってもいいようなものになることがありました。


〈22〉

 父は、酔っ払って、幼児の頃の私にプロレス技をかけることがありました。布団蒸しのような状態になる技をかけられて、こちらが息ができなくなって苦しみを訴えても、「イヒヒヒ」とも「グフフフ」ともつかないような妙な笑い声を立てるばかりで、なかなか技を外してくれようとしません。「本当に死んでしまう!」と思ったことが何度もありました。
 母が、父のこういう行為について、「お父さんは親しみを表そうとしてやっているのよ」などと言っていたような憶えもあります。(こういう仕打ちを受けた後に、泣いたり、悔しそうな表情をしていたりする私に。)・・・しかし、とてもそんな風に思えるようなものではありませんでした。
 技を外されてやっと自由になると、私はそのたび声を上げて泣いていましたから、とても「遊んでいる」とか「じゃれている」、「かわいがっている、かわいがられている」という感じの触れ合い方などではなかったのです。

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最初の投稿<細分> 〈23〉

〈23〉

 また、私はおねしょが小学校高学年になるまで治りませんでしたが、幼稚園児の頃だったか小学校低学年の頃だったか、酔っ払った父が私のおねしょのことについて何か言っていました。
 そして、そのうち引き出しから大きな裁ちバサミを取り出して高く掲げ、「おちんちん切っちゃうぞー」と、私に向かって大声を出しました。本人としては陽気にふざけているつもりなのでしたが、お酒が相当入っていましたから何か間違いが起きてもおかしくなく、こちらにとっては例えようもない恐ろしさでした。
 追いかけられたかどうかは憶えていません。しかし私の方に向かって一歩二歩踏み出して威嚇するぐらいはした筈です。
 暴れる時の父はいつもそうなのですが、それに伴ってドスン、ドスンと音を立てる――というよりは、熊や、雷や、“熊ん蜂”を思わせるような“どす黒い”という感じのする振動をさせるのです。その振動が、何とも不穏で恐ろしいものでした。それが、私の体ばかりか心を含めた全存在を震わせるのでした。
 裁ちバサミと、怒声と、“どす黒い”振動で攻め立てられた私は、当然大声を上げて泣き喚いていた筈です。

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最初の投稿<細分> 〈24〉

〈24〉

 母は母で、私のどもりをよくからかいの種にしました。(漫才の大助花子の花子の方が、大助の訥弁をまねる場面を思い出していただければと思います。)
 母の前で、私が何か言うと、私はふつうに話しているつもりなのですが、母は私の口調を真似て口をすぼめ、
 「ブォゥ、ウォゥウォゥウォゥウォゥウォゥウォゥ・・・」(これを速いリズムで2、3回繰り返す。)
などと言うのです。私の口調を真似た後に、
 「そんなんじゃ、何言ってるか分かんね。もっとハッキリとっ!」

 ――こうして、私のどもりはますますひどくなっていきました。

 「アッフャッフャッフャッフャッ」、「アビャビャビャビャビャビャ」
母はこんな風に真似ることもありました。

 他の家庭の母親もこんなものなのでしょうか?
 私の母はこんな風に私のことを揶揄する自分自身について、少しでも恥ずかしいと思ったことはなかったのでしょうか?
 母が私のどもりを真似ているところをビデオカメラで撮って、そのビデオを全く予告なし、全く思いもかけない時に、たとえば親戚一同の前、近所の人たちが集まった場などでテレビに映し出すというようなことができていたなら、テレビに映し出された自分自身の姿に、母はどのように反応したでしょうか?



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最初の投稿<細分> 〈25〉〈26〉

〈25〉

 「お前なんか生まれてこなきゃよかった」
 「ほら見ろ、お前は何をやらせても駄目なんだ」
 「お前がどんな人間になるか、先々心配だよ」
 幼い頃から、こんな言葉を言われ続けてきました。
 「単なる言葉だ」と以前は思っていました。
 しかし、単なる言葉ではありませんでした。
 これらの言葉が、私という存在を十重二十重に縛り付けていることに、大人になってから徐々に気付き始めました。
 もう、私の力でこの呪縛を解くことはできません。


〈26〉

 「予言の自己成就」というものがあるように、「暗示の自己成就」と言ってもいいようなものがあるようです。(育児関連の記事に目を通していると、そういったことについて触れているものを時々目にします。)
 「お前なんか何をやってもダメだ」と言われ続けると、言われた子は本当に何をやってもダメな子になってしまう。
 親が、「(どもらずに)ちゃんと話しなさい」と注意してしまうと、言われた子供には「親は僕がちゃんと話せないと思っているらしい」という無意識の思いが生じ、ますますどもっていってしまう。
 「家でばかり遊んでいないで外に出て遊びなさい! ・・・一緒に遊んでくれる友達はいないの? なぜ他の子と友達になれないのよ!?」こう言われた場合の子供は・・・
  ――友達を作らなきゃ、というプレッシャーもあって、友達になれるかもしれない同年代の子と、友達に加えてもらえるようにかしこまって付き合い、その様子に異質なものを感じ取られて却って敬遠されてしまう。・・・友達づくりに失敗し、ますます家の中へ引きこもる・・・友達づくりに挫折した苦い経験から友達づくりにはますます消極的になっていってしまう・・・



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最初の投稿<細分> 〈27〉

〈27〉

 子供が成長していくと、他者との人間関係は親との間以外にも作られていくはずです。
 友達との間、先生との間、異性との間、先輩後輩との間、上司との間・・・
 いずれかの関係が強固で心の通ったものになると、たとえ親との関係で失敗していたとしても、生きていく力、決して自暴自棄になることのない強い心の礎を得ることになるのだと思います。
 戦後の混乱期や高度経済成長期、親からぞんざいに扱われていた子供も沢山いたことでしょうが、そういう子供たちの殆どが、自暴自棄になったりなどせず、大して大きく道を外れることがなかったのは、同じような目に遭っている友達と悩みを打ち明けあったり、語り合ったりして共感をもつことができていたからなのでしょう。「共感」が慰めにも励ましにもなり、苦しみの緩和にもなり、自信を持って生きて行ける力の源にもなったのでしょう。

 私はと言えば、私はいずれの人間関係も上手く結ぶことはできませんでした。



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最初の投稿<細分> 〈28〉

〈28〉

 世の中のふつうの人が挫折すると、その人の心の中では
「お前ならきっと大丈夫だよ。きっとやれるよ」
という、その人の父や母や、友や恋人からの励ましの声が響くようです。
 しかし、私の心の中では、そんな慰めや励ましの声が響くことは決してありません。
 私が挫折した時に私の心の中で響くのは、
「ほら見ろ、お前はやっぱり何をやらせても駄目なんだ」
とか、
「お前なんか生まれてこなきゃよかったんだ」とか、
そういう類の罵りの言葉ばかりです。

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最初の投稿<細分> 〈29〉

〈29〉

 親による教育の目的とは要するに、子供の心の中に、親の声を生涯にわたって響かせるようにすることなのではないでしょうか。人生の節目節目で慰めたり、励ましたり、教え諭したりする親を、子供の心の中に宿らせることなのではないでしょうか。
 しつけをして周りに迷惑をかけさせないようにするとか、世の中の役に立つ人間に育てるとか、そういった目標は実は二の次なのではないでしょうか。
 親の肯定的な声を子供の心の中に響かせるということができていないと、それらの目標も空しいものとなり、達成することは容易でなくなってしまうのではないでしょうか。

 私の親がどうだったかと言えば――完璧に成功しました。ただし、"負の声"を響かせ続けることに。

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最初の投稿<細分> 〈30〉〈31〉

〈30〉

 目の前に両親がいなくても、私の行く先々、世の中のあらゆる所に私の両親はひそんでいました。
 学友や、先生や、異性や、仕事仲間や、上司・・・とにかく世の中のあらゆるものが、世の中全体が、私を罵り続けるのです。
 「ほら見ろ! お前はやっぱり何をやらせても駄目なんだ」
 「お前なんか生まれてこなけりゃよかったのに!」
 私をとりまくすべてのものが、私の父母の代理として、私に罵りの言葉を浴びせかけ続けてきました。


〈31〉

 幸福な家庭に育った人が、その人をとりまくすべてのものから祝福され、肯定されているかのようになるのとは全く逆なのです。(実際に周囲が祝福したり肯定したりしていなくても、彼の心が、周囲をそのように感じられるようになっているのです。彼の心の方こそ、世の中を祝福し、肯定しているのです。彼の心自体が――彼の存在自体が――祝福されているのです。こういう心は親からの十分な愛情を注がれてこそ形成されるものです。)
 こういう人は、万一挫折したとしても、やがて周囲のものに慰めを見出し、励まされているように感じ、徐々に立ち直っていくことになるのでしょう。



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最初の投稿<細分> 〈32〉〈33〉

〈32〉

 私の幼い時の心に歪みを生じさせる働きをしたものは、直接私に向けられた行為だけに限られません。
 父と母が激しいケンカをするたび、父が野獣のような大きな声を出して暴れるたび、私の心は圧伏され、絶望し、悲しんでいました。
 他の兄弟に対する激しい叱責にも私の身と心は縮こまりました。


〈33〉

 私の兄弟のうち、私を含めて3人が登校拒否の経験をもっています。
 私がまだ幼児だった頃、小学校低学年の頃の兄が登校拒否する様子を見ていました。
 学校に行くのを嫌がって玄関の柱にしがみつく兄を、私の親は怒鳴りながら引っ張り、柱から引き離そうとしていました。兄は玄関先に嘔吐しました。集団登校で迎えに来た子供たちの前での事でした。玄関先で、情けなく泣きながら、親に服をつかまれながらほぼ仰向けに倒れているというみじめな様子もおぼろげながら憶えています。

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最初の投稿<細分> 〈34〉

〈34〉

 両親の兄に対する扱いを私は忘れません。
 兄は成績が良くありませんでした。
 「お前はよくこの成績で特殊学級に入れられなかったね!」
 兄の成績の悪さに腹を立てた母がこう罵っていたのを思い出します。
 やがて兄の脳に先天的な障害のあることが分かりました。
 そうなると、今までとは打って変わったように、母の兄への接し方が変わりました。あんなに酷く罵っていたというのに、
「○ちゃんはいい子だ、えらい子だ、立派な子だ」などと言ってメソメソするのです。
 この時の事を思うと、私は白けてしまいます。
 病気になると、とたんに「いい子」「えらい子」「立派な子」になってしまうのでしょうか?
 病気であってもなくても、我が子は、我が子であるというその事だけで「いい子」「えらい子」「立派な子」としてその親から扱われるべきではないのでしょうか? (たとえ実際は世間的な目で見て「いい子」「えらい子」「立派な子」でなかったとしても・・・。)

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最初の投稿<細分> 〈35〉〈36〉

〈35〉

 私の親は、私を含めた自分の子供たちを、ついに一人もまともに育て上げることができませんでした。兄弟のうちの一人は今、引きこもりになっています。引きこもっている期間は、十年の単位で数えた方がいいような長期に及んでいます。


〈36〉

 私が今までに受けてきた罵りの言葉や、親によって味わわされたみじめな体験は、その一つ一つは確かに細かいつぶてに過ぎなかったのかもしれません。しかし、その数があまりにも多すぎました。それらに打たれ続けている時間も長すぎました。私の心の心はもうすっかりボロボロになってしまいました。



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最初の投稿<細分> 〈37〉

〈37〉

 自分がろくでなしだということを尻からも頭からも叩きこまれ、そのことを人生の節目節目や、普通の生活の様々な場面で何度も何度も突き付けられ、確認させられる、というのが結局、私の人生の全貌だったように思います。
 私は、自分がこの世に生まれてくるべきでなかったことを知るために、この世に生まれてきたようなものです。



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最初の投稿<細分> 〈38〉

〈38〉

 子供のありのままを――その意志を、懊悩を、嗜好や個性を受けとめることができず、・・・
 子供の中にある人格の萌芽や、神性と言ってもいいようなものを、重んじることも、信じることもできず、・・・
 我が子のやる事なす事に不快や不満や不安を感じ、それを心の中で鎮めることができず、心の中に留め置いておくことができず、
 言って良い言葉なのかどうか注意深く慮ることなく、子供についての否定的な言葉を無神経にも口に出し、取り返しのつかない深い傷を、我が子の心に与える。そしてその行為を繰り返し、子供の心をぼろきれ同然にまでしてしまう。

 ――このような親の下で育った子供が、あの秋葉原で起こったような無差別殺傷事件を起こしてしまっても決して不思議ではないように思えます。
 私にはあの犯人の気持が分かるような気がします。

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最初の投稿<細分> 〈39〉

〈39〉

 一人の人間の存在が、その親から歓び迎えられなかったということ、それは、その人間が全世界から拒まれたということに等しいのではないでしょうか?
 世界から拒まれた人間が、いずれ世界に対して憤懣を抱き、復讐を企てることがあっても、それは自然のなりゆきとも言えるのではないでしょうか。

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最初の投稿<細分> 〈40〉

〈40〉

 幼い子供にとっては親がすべてです。親が世界の象徴であり、世界への窓口です。少なくとも、子供が長じて友(親以外との新しい人間関係)を得ることができるようになるまでは。しかし、親との関係が失敗していれば、友を作れる可能性もその時点で大きく失われているのです。



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最初の投稿<細分> 〈41〉

〈41〉

 私は救いを必要としています。

 空を飛ぶように生まれついている鳥が、翼を折られたまま空に抛り出されたらどうなるでしょう?
 私はその鳥と同じような境遇に置かれているのです。
 全く飛べない訳ではなく、中途半端に飛べてしまっていたのは、寧ろ不幸なことでした。自分の翼の違和感を「何か、どうも変なんだよ」と訴えても、「飛べてない訳じゃないのに、何を文句を言うことがあるのだ」と一喝を喰らうなり、たしなめられたりするなどで、こちらの愁訴を引っ込め、それを封じてしまうよりほか、私にはそれについて何か言ったり、したりすることは許されていなかったのです。

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最初の投稿<細分> 〈42〉

〈42〉

 自分の飛び方がどこかおかしいのは自分自身で気づいていました。その滑稽さを嗤われて心が挫けるのは自分の心が弱いからなのだと自分自身を責めていました。自分の飛び方が拙いのも、つまるところは自分が悪いからなのだと思っていました。

 しかし、雛のうちに翼を折られてしまったことは、果たして私に落ち度があったのでしょうか? どうしてもそうとは思えなくなってきたのです。
 それに、雛のうちに翼を折られてしまっていたらしい事、この事には、もう、子供ではなくなって大人になってから、人生の半分を終える頃になってやっと気づくことができたことなのです。それについての対処を講じられるのは当然それ以後のことです。今までそのことについて自分自身で対処していなかったことについて責められる謂われはありません。

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